グロー燃料の成分と各成分の働き-2

グローエンジンを長期間使用していたり、ニードル設定を間違えてオーバーヒートさせたりすると、ピストンやシリンダーヘッドの表面が、黄色や茶褐色に変色したり、厚みのある黒い堆積物が沈着する事があります。

添加剤の種類と役割

■グローエンジンを長期間使用していたり、ニードル設定を間違えてオーバーヒートさせたりすると、ピストンやシリンダーヘッドの表面が、黄色や茶褐色に変色したり、厚みのある黒い堆積物が沈着する事があります。これは燃料中のオイルが、高温で空気や燃焼ガスと接触する際に、一部が酸化されて酸化物やバニッシュ(高分子樹脂状化合物)およびスラッジ(油分や水分を含む軟らかい泥状物質)等を生成し、更に温度条件が厳しくなるとそれらが炭化してカーボン状になりエンジン各部へ固着して堆積物となるためです。
■また、鉄で出来たクランクシャフトやボールベアリングは、錆びて茶色や赤色に変色したり、ひどい場合には、ベアリングが固着してエンジンが回らなくなることがあります。この原因は、グロー燃料が燃焼する際にピストンとシリンダーの隙間を通り抜けた燃焼ガス(ブローバイガスという)と、燃焼で生成した水分がクランクケース内で凝縮して、一部が「蟻酸」や「硝酸」という腐食性の非常に強い「酸」を作り、鉄製のエンジン部品を錆びさせる(酸化鉄になる)ことによります。
■鉄が錆びて酸化鉄になると、元の鉄よりも軟らかい金属になるため、摩耗が促進され(これを腐食摩耗と言います)エンジンの寿命を縮めてしまいます。くれぐれも錆にはご用心。鉄部品を錆びさせないために、エンジンをオーバーヒートさせて酸化反応を促進させたり、使用後のメンテナンスを怠って錆を助長させることの無いように心がけて下さい。
■添加剤は、私たちが風邪をひいたとき、その症状にあわせて処方された薬を飲むことで治癒するのと同じように、このようなエンジンの汚れや錆の発生に対しても、その生成要因や生成物の内容に応じた添加剤をごく少量加えることで抑制することが可能になります。記載の表に模型燃料で使われる一般的な添加剤の種類と機能についてご紹介します。

1- 酸化防止剤

<酸化防止剤の働き> 1. オイルの分解温度向上  2. オイルの酸化抑制 3. 燃料の貯蔵安定性向上
■酸化防止剤は、グロー燃料がエンジン内で燃焼する際に、燃料中のオイル(PPG)が高温に曝されて分解しガス化してしまう(油膜が無くなる)のを抑制したり、オイルが酸化して酸化物やバニッシュおよびスラッジなどが生成するのを防ぐ働きをします。また長期保管中のグロー燃料が、空気に触れて酸化劣化するのを抑制して商品の品質安定性を保ちます。このようなことから酸化防止剤は、グロー燃料にとっての「不老長寿の薬」とも言えます。

2- 清浄剤

<清浄剤の働き> 1. 酸化物の中和作用 2. 生成物の分散作用 3. 部品の清浄作用 4. 部品の防錆作用
■清浄剤は、エンジン内部で生成した燃料やオイルの酸化物を中和、分散させてエンジン各部を清浄に保ち、金属の腐食摩耗を防止する働きをします。清浄剤の化学的な作用としては、メタノールやニトロメタンが酸化(燃焼)して生成する蟻酸や硝酸を中和して鉄部品の錆を防ぎます。また、物理的な作用としては、エンジン内で生成したバニッシュやスラッジなどの細かい粒子が凝集して大きくなり部品表面へ付着する前に、清浄剤の働きで粒子を細かく分散させてオイル中に溶解させオイルと共にエンジンの外へ運び出します。丁度、我々が石鹸を使って泥で汚れた手を洗うような作業に似ています。

3- 防錆剤

<防錆剤の働き> 1. 金属面への酸化物の遮断 2. 金属面へ付着した酸化物とオイルの置換 3. 酸化物の中和
■エンジン部品の錆は、金属表面へ水や酸素および酸化物などが吸着して金属を酸化させることで発生します。そのため部品を保管する倉庫のような環境の良いところでは、油膜で空気を遮断するだけで大きな防錆効果が得られます。しかし、グローエンジン内部のように、温度が高く水分や酸性度の高い環境下では、油膜だけでは十分な防錆効果は期待出来ません。このような場合には防錆剤を使用することで、添加剤分子が金属表面へ強力に吸着して、水や酸素および酸化物が金属表面へ直接接触するのを妨げたり、金属表面へ付着した水などの腐食性物質が添加剤の作用でオイルと置換されることで錆の発生が抑制されます。また、防錆剤の中には酸化物を中和するタイプもありますが、その主な働きは金属表面を錆から守る「バリケード」と言えます。

4- 油性剤

<油性剤の働き> 1. 摩擦係数の低下 2. 潤滑性の向上 3. 発熱の低下 4. 摩耗の低減 5. 出力の増加
■エンジンを高温で高負荷となるような厳しい条件で運転すると、ピストンとシリンダー間あるいはクランクシャフトとベアリング間のような摩擦面では、油膜が薄くなって金属同士の接触を起こし、摩擦抵抗が増加して発熱し、エンジン出力が低下したり、ひどい場合には摩擦面が焼き付いたりすることがあります。このような場合には油性剤を使用することで、添加剤分子が金属表面に物理的な吸着膜を作って摩擦係数を下げ、潤滑性を向上させて摩擦による発熱や摩耗を減少させることが出来ます。但し、温度が高くなり過ぎると吸着膜が脱落し効果が減少します。ひまし油は添加剤ではありませんが、このような油性剤的な作用があるため、合成油(PPG)へ適量を添加することで非常に特性の優れたグロー燃料となり、自動車用燃料に多く処方されています。

5- その他の添加剤

<その他の添加剤の種類> 1. 極圧剤 2. 摩擦調整剤 3. 粘度指数向上剤 4. 流動点降下剤 5. 消泡剤
■実用のガソリンやディーゼルエンジンでは、油性剤が使用可能な条件より更に過酷で高温・高負荷となることがあります。このような場合には金属表面へ化学的に吸着膜を作り潤滑性を向上させる極圧剤や、固体の潤滑剤が摩擦面へ滑り込み摩擦を低減させる摩擦調整剤(二硫化モリブデンやテフロン等)があります。実用エンジンで使われる添加剤には、この他にも粘度指数向上剤、流動点降下剤、消泡剤等がありますが、模型用グローエンジンではその使用条件から効果は無く実際には使用されていません。
<添加剤による効果>
1. 汚れを防ぐ
2. 錆を防ぐ
3. 摩耗を防ぐ
4. 出力を向上する
5. エンジン寿命を延ばす
■グロー燃料の選択は、皆さんが風邪薬を選ぶのと同じように、薬効成分(添加剤)の表示や、美辞麗句の宣伝文句に惑わされずに、実際に使っている人の評判を聞いて、実際に自分で使ってみて判断することが必要です。初心者には、燃料の違いによる「走行フィーリング」や「飛行フィーリング」の違いを瞬時に判断するのは難しいですが、エンジンの「汚れ」や「錆」の判断は見れば分かります。ある一定の期間その燃料を使ってみれば一目で判断できます。
■良く出来た燃料は、余程間違ったエンジンの使い方をしない限り、汚れや錆が抑制されています。しかし使用方法を誤ると、例え効果のある添加剤が配合されていても、エンジンが汚れたり、錆びたり、摩耗が増えたりすることもあります。適正なニードルセットで、エンジンをオーバーヒートさせない条件で使う限り、汚れや錆び、摩耗は最小限に抑えられ長くエンジンを使用することが可能になります。くれぐれも添加剤の効果を過信せずに、エンジンに優しいニードルセットで、エンジンに優しいドライブ(フライト)を楽しんで下さい。